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盛岡地方裁判所 昭和35年(わ)138号 判決 1960年9月21日

被告人 藤井研造

昭二・二・一生 外交員

遠藤志郎

昭六・一一・二九生 外交員

主文

被告人両名を、いずれも懲役一年に処する。

被告人両名に対し、三年間刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

本件公訴事実中、第二の強姦の点についての公訴を棄却する。

理由

(罪となる事実)

被告人両名は、いずれも丸進繊維株式会社のセールスマンとして既製服販売のため、東京から盛岡に来たものであるが、昭和三五年五月一五日午後一〇時頃、たまたま知り合つた東北毛織株式会社の女工A、BおよびCを自動車で送つてやるといつて被告人藤井の運転する小型四輪乗用自動車(五や二八八六号)に乗せ、盛岡市内から郊外の同会社寮近くに至り、右BおよびCを順次下車させた後、被告人等は、共謀の上、同日午後一〇時五〇分頃から同日午後一一時頃までの間、右A(一九才)を強いて前記自動車の後部座席に閉じこめて、岩手県紫波郡都南村飯岡小学校羽場分校東方十字路付近から同村上湯沢四地割九二の二熊谷左右工門方西方約六四メートルの道路上まで運転疾走し、その脱出を不能にして、同女を不法に監禁したものである。

(証拠)(略)

(法令の適用)

被告人等の各判示所為は、いずれも、刑法二二〇条一項、六〇条に該当するので所定刑期範囲内で、被告人両名をいずれも懲役一年に処し、犯情により、刑法二五条を適用して、被告人両名に対し三年間刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文、一八二条により、被告人両名の連帯負担とする。

(本件公訴事実中第二の強姦致傷の点についての判断)

本件公訴事実中、第二の訴因は、「被告人等両名は、Aを強姦しようと企て、共謀の上、昭和三五年五月一五日午後一一時頃、岩手県紫波郡都南村上湯沢四地割九二の二・熊谷左右工門方西方約六四メートルの道路上に停車していた小型四輪乗用自動車(五や二八八六号)の後部座席において、まず被告人藤井において、右Aの顔面を平手で二回殴打してそのズロースを引き下ろし、馬乗りとになつて反抗を抑圧した上、これを姦淫し、ついで、被告人遠藤において、同女に馬乗りとなつて前同様強姦し、さらに、被告人藤井において同女に馬乗りとなつて前同様強姦し、右現場において共同して犯した強姦行為によつて同女に対し処女膜裂創の傷害を与えたものである」というのである。当裁判所の検証調書および証人Aに対する尋問調書、裁判官の証人Aに対する尋問調書、被告人両名の検察官に対する各供述調書被告人両名の当公判廷における各陳述および各供述を総合すると、次の事実が認められる。

昭和三五年五月一五日午後一一時前頃、被告人遠藤は、藤井に代つて前記乗用車を運転し、被告人藤井は、右Aと並んで後部座席に乗つていたが、前記熊谷宅付近まできた時、道路がぬかつていたためエンジンが故障し、車は停つて了つた。被告人遠藤が、下車してボンネツトを開け配線の具合を調べている間に、被告人藤井は俄かに劣情を催し、後部座席において、Aの顔面を平手で殴打し、そのズロースを引き下ろしてこれを強いて姦淫した。被告人遠藤は、前記のようにエンジンの具合を調べたのち、被告人藤井にも点検して貰おうと思い、後部座席に近づいたところ、車内で被告人藤井が前記のように姦淫していることの気配を察し、近くにいたのでは気まずいので、車から少し離れていた。間もなく被告人藤井と点検を交代して、被告人遠藤は後部座席に入つたが、被告人藤井が姦淫したことを知つてから昂進した劣情押え難く、被告人藤井が車外にいるのを好機に、諦めと恐怖心にかられているAのズロースを引き下ろして、同女を強いて姦淫した。被告人藤井は、前記のようにAを姦淫した後、何となく面映ゆいので、しばらく車外にいたが、暫時の後、戻り、被告人遠藤が車外に出るのと入れ違いに、再び後部座席に入つたところ、Aが身仕舞いしているのをみて、再び劣情を催し前同様、同女を強いて姦淫した。

以上のような事実が認められる。すなわち、前記証拠によれば、せいぜい被告人両名において、相互に他方がAを姦淫している事実を認識していたことを認めうるに止り、それ以上に、被告人両名が、右強姦行為の事前に共謀し又は、強姦行為を共同して行つたと認めるに足りる証拠はない。強姦は、被告人両名がそれぞれ単独で相ついで犯したものというべきである。

医師・工藤直彦作成の診断書によれば、Aが処女膜裂創を負つたことが明らかであり、その傷害は被告人両名の姦淫行為の結果であることは、証拠上明白であるが、それが被告人藤井の行為によるものか、被告人遠藤の行為に由来するものかは、これを明らかにすることは証拠上困難である。そして、刑法二〇七条は、個人責任を基調とする刑法の例外的規定であり、右規定が傷害罪の章下にあることを併わせ考えると、強姦致傷には適用なしと解せられるので、強姦が共同犯行でない以上、被告人等のいずれにも致傷の結果についての責任を負わせることはできず、被告人両名については、それぞれ、単なる強姦罪の責任を問い得るに止まるものといわなければならない。

しかるところ、本件においては、公訴の提起は、昭和三五年六月六日になされたものであるが、その以前である同月三日、被害者Aの告訴取下書が盛岡地方検察庁検察官に提出されていることは、本件記録に徴して明らかである。刑法一八〇条二項は、共犯の場合にのみ適用があると解せられるから、現場において二人以上相次いで犯したにせよ単独犯行である前記被告人らの強姦行為は親告罪というべく、したがつて告訴取下後に提起された本件公訴は、いわゆる訴訟条件を欠き、公訴提起の手続が、その規定に違反したため無効であるときに該当するので、刑訴法三三八条四号により公訴棄却を免がれない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀬戸正二 大塚淳 真田順司)

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